第4984バジリカ(サン・ドニ大聖堂とバンリュー、13号線) - 5000夜(文章ノート)
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第4984バジリカ(サン・ドニ大聖堂とバンリュー、13号線)

メトロ13号線に乗って。13という数字が特別に何か意味するのかどうか正直わからない、あるいは言い切れないのだが、もちろん特定の人々の宗教・文化の中では意味を持っている。とは言えそれがどこまで、そして誰に影響力を持っているのかを量るのは容易ではない。ただリュック・ベッソン製作のBanlieue 13というハードコアなギャング映画があったり(フランスで一番貧しいセーヌ・サン・ドニ県の郵便番号93からのメタファーがあるかも知れない)、パリ13区にはもっとも大きな中華街・ベトナム人街があったり、私の所属していたパリ13大学は事実学生の大半がアフリカ・アラブ系であり、そしてパリを南北に縦断するメトロ13号線は、とりわけ北へ向かうにつれ真っ黒になる。

実際車両はかなり汚れていたし、八月の暑さがぶり返した午後、混雑する車内はそれなりに雑多な印象を強く与えるものだ。見れば実は新型の車両で(弱々しいながら)空調も効いていたけれども、同じく(黒っぽく雑多な)郊外にあった外交史料館に行き疲れた同行の研究者にとっては相変わらずインパクトのある光景であったようだ。終点から一駅目、サン・ドニ大聖堂は歴代のフランス国王が埋葬されている「由緒正しき」場所ではあるけれど、現在ではそのようなわけで移民(系)の集う地区として有名なのを聞き、また目にもし、「勿体ないですね」と一言感想を述べた。

公共交通機関を使用すれば日に必ず数度は目にする物乞いの人々の姿にもすっかり慣れ、彼らの様々のパフォーマンスにもいちいち心を動かされなくなった私は、今では貧しい地区とはっきり言う。貧しい地区に貧しい人々が住まうのは単に事実だから。アフリカ系の人々が多く住まう、とも言う。これも事実だから。しかし、それを(伝統的な場所が変化してしまって)勿体ないとは言わない。たかだか三世代遡れば植民地の人々で、あえて言うならば収奪されてきた人々が、それをしてきた側の相続してきたものと同じだけのものを持っているわけがない。大袈裟に言うならなにも持ってない、と言っても良いくらいだ。そんな人々がそれでも金を稼ぎにやってきて安い地区に住まう。彼らはそうして生きている。自然なことだと思うだけだ。そしてそんな地区にまだかのような大聖堂が建っているのならば、そのコントラストはほとんど美しいと言って良いくらいだ。

私個人は確かに静かな場所が好きで、人混みが嫌いで、淡い色を好み、なるべくならば放っておいて欲しい。無人の地を原動機に乗って行けるならばどこまでも行きたい方だし、その意味では人の移動のダイナミズム等とは実はかけ離れた性向を持っていると思う。それでもキャンプ中に私の喰らうビスケットは世界が作っている。地球はあくまで丸いのだ。
私がもし仮に、何かを「保存したい」と思う側に生まれ生きているのならば、それに尽力はするのかも知れない。古いものが好きなのだから。伝統とは確かに美しい。ただ、保存できるものをそもそも持っている、ということは世界に負っているということだ。だから、その世界から来る人々を排除するならばそんな美しさなど一瞬で輝きを失うだろうし、むしろこの上なく醜く寂しいものとなるだろう。

通常、忌み嫌われる事の多い「13」には、やはり隠された意味があるのだと思われてならない。あるいはつまらぬ陰謀論等紐解かずとも、全ての数字は迷信深い人々には同じ価値を持つわけでもなく、自然に偏りそうなるのかもと思う。それで、私達の勝手な好き嫌いを別にすれば、どの数字もただ一意に価値を持っているだけのことだろう。そこに「良し悪し」があるわけではない。

キーワード:パリメトロ、13号線、セーヌ・サン・ドニ県、サン・ドニ大聖堂、植民地
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