第4988地中海(土地の感じとスナフキン的所有)
「土地の感じと血縁と地縁」についてまだ結論を書いてなかった。ひとつには単純な結論なんかない、ということ。二つには、当初の予定では、勿論、血にこだわるよりは地の繋がりが人類にとって重要なオルタナティブではないか、と着地するつもりだったのに、書いているうちに結局は同じことではないかと思われてきたからだ。
そもそもこれらの語は日常で使うような語と言うよりは、例えば共和国的精神において誰に国籍を与えるのか、という意味において対比される概念だ。血統主義と出生地主義と言い換えても良い。平たく言えば、日本で生まれただけでは日本国籍を得ないのに対して、その地で生まれれば籍を与える国がある。だから、そのような意味合いにおいて議論する限りでは確かに俎上に載せるべきものだ。現実問題として決めねばならない。
ただ、人とは家族が大事で、そして次に隣人でとくるのは至極当たり前のことだ。いかに現在の世がグローバル化しつつあると言っても、生活の基盤が地域地域にあることにはほぼ変わりがない。交通手段の進化によって、その地域とは地理的にかなり拡大し程度こそ違えども、その原理には変わることがないだろう。さて、それをどの辺で区切り、どの程度まで混じらわせるのか。今や各地との交易なしには私達の世界は成り立たない。成り立たないが、それでも私達は知らず分断されている。あるいは自ら嬉々として独立を謳う。
先日、アフリカからのボート難民を押しとどめるべく、クラウドファンディングで船を仕立てて活動する欧州の若者たちのニュースを目にした。私も静かな住宅地にガヤガヤとよそ者に来て欲しいとは思わない。何と言ってもうるさいのは嫌いなのだ。それで当世風にネットで資金を募り、そんな活動を起こすなんて、なかなか現代的でもあるしそれになんて家族思いなんだろう。素晴らしい地域社会を作って、あるいは受け継ぎ、そして守る。立派なことだ。難民にとってさえ、危険な渡航をはなから諦めさせることができるなら、それも安全だ。
問題は、ひきつった冷笑を頬に貼り付かせずにそれを言えぬ私にあるのか。それとも地中海が悪いのか。海は確かに悪いだろう。イルカに乗った少年も所詮は金の塊に過ぎず、ツバメの力を借りずには自らを分け与えることなどできはしない。仮にできたところで、なにもかもが足りないだろう。冬は寒く、渡りの鳥は死んでしまう。ならばいっそ鋳つぶして無に帰させるか。おとぎ話と違うのは、そこに別に救いなんかないことだ。
とはいえ、少し希望を持つようにしようか。
宇宙に行こうとするのは良いことだろう。火星人がいたら是非家族になりたいと思う。これは決して冗談ではなく、私達には恐らくそんな「方向」しかない、ということだ。幸い、科学技術は進むしかない。いずれ本当にそんな日がくるだろう。技術の進歩は僅かずつでも私達を救うはずだ。
技術以外はどうだろう。私達の心はどうだろう。そんな曖昧な「方向」を、匂いと味のあるものに変えるのが「土地の感じ」だ。行って直に手にその地の赤い砂に触れてみるしかないだろう。
キーワード:血統主義、出生地主義、オスカー・ワイルド、ハッピープリンス、島の女、ジュリー・ロンドン、火星協会。
そもそもこれらの語は日常で使うような語と言うよりは、例えば共和国的精神において誰に国籍を与えるのか、という意味において対比される概念だ。血統主義と出生地主義と言い換えても良い。平たく言えば、日本で生まれただけでは日本国籍を得ないのに対して、その地で生まれれば籍を与える国がある。だから、そのような意味合いにおいて議論する限りでは確かに俎上に載せるべきものだ。現実問題として決めねばならない。
ただ、人とは家族が大事で、そして次に隣人でとくるのは至極当たり前のことだ。いかに現在の世がグローバル化しつつあると言っても、生活の基盤が地域地域にあることにはほぼ変わりがない。交通手段の進化によって、その地域とは地理的にかなり拡大し程度こそ違えども、その原理には変わることがないだろう。さて、それをどの辺で区切り、どの程度まで混じらわせるのか。今や各地との交易なしには私達の世界は成り立たない。成り立たないが、それでも私達は知らず分断されている。あるいは自ら嬉々として独立を謳う。
先日、アフリカからのボート難民を押しとどめるべく、クラウドファンディングで船を仕立てて活動する欧州の若者たちのニュースを目にした。私も静かな住宅地にガヤガヤとよそ者に来て欲しいとは思わない。何と言ってもうるさいのは嫌いなのだ。それで当世風にネットで資金を募り、そんな活動を起こすなんて、なかなか現代的でもあるしそれになんて家族思いなんだろう。素晴らしい地域社会を作って、あるいは受け継ぎ、そして守る。立派なことだ。難民にとってさえ、危険な渡航をはなから諦めさせることができるなら、それも安全だ。
問題は、ひきつった冷笑を頬に貼り付かせずにそれを言えぬ私にあるのか。それとも地中海が悪いのか。海は確かに悪いだろう。イルカに乗った少年も所詮は金の塊に過ぎず、ツバメの力を借りずには自らを分け与えることなどできはしない。仮にできたところで、なにもかもが足りないだろう。冬は寒く、渡りの鳥は死んでしまう。ならばいっそ鋳つぶして無に帰させるか。おとぎ話と違うのは、そこに別に救いなんかないことだ。
とはいえ、少し希望を持つようにしようか。
宇宙に行こうとするのは良いことだろう。火星人がいたら是非家族になりたいと思う。これは決して冗談ではなく、私達には恐らくそんな「方向」しかない、ということだ。幸い、科学技術は進むしかない。いずれ本当にそんな日がくるだろう。技術の進歩は僅かずつでも私達を救うはずだ。
技術以外はどうだろう。私達の心はどうだろう。そんな曖昧な「方向」を、匂いと味のあるものに変えるのが「土地の感じ」だ。行って直に手にその地の赤い砂に触れてみるしかないだろう。
キーワード:血統主義、出生地主義、オスカー・ワイルド、ハッピープリンス、島の女、ジュリー・ロンドン、火星協会。
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