第二三三稿(旅行雑感2016年9月フランシュ・コンテ地方) - ツーリング
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第二三三稿(旅行雑感2016年9月フランシュ・コンテ地方)

2016年9月、久しぶりに長距離走る機会がありました。
片道400㎞程、期間は4日間、季節柄も良くまた天候にも恵まれ
絶好のツーリングかと思われましたが、実際にはとあるコロキアムに参加するのが目的だったので
行と帰りに走っただけではあった。いわゆる弾丸特急。

本来はTGVにて行けば良いだけの案件です。
むしろ電車好きの人であれば、嬉しいのかも知れません。
ただ私はと言えば、新幹線に乗るのが楽しみだったのは遥か昔のこと、
ひとたび自力で車輪を転がして地面を這っていくことを覚えてからは
電車に乗る喜びなどはついに感じなくなってしまった。

一言で言えばつまらない。
つきあい始めたばかりの恋人と乗って駅弁なぞ喰らうならまだしも、そうでないなら退屈してしまう。
いや、そうであってももうつまらぬかも知れない。
(そもそも、そんな機会もなかろうし)
つまり、決まったレールの上を荷物よろしく運ばれていくのはごめんなのだ。

逆に言うなら、せっせと車輪を転がして行くのはツラく馬鹿なようでいて
限りなく楽しい。移動という本質自体はなにも変わらないのかも知れないけれど
少なくとも自分の力で動いてる、と錯覚することはできる。
道を選ぶことができるし、新たな発見の連続だ。
寒さ暑さに翻弄されながらも、大地を刻む実感が得られる。
命を張ってると思うのもいいし、また認識として正しい。
列車が遅れれば他人の責任だけれど、マシンが壊れるなら自らの責任と思えるし
目的地を定めて、そこに右往左往しながら向かっていくのは
あたかも人生の縮図のようなものだ。

古い愛車と共に。
(とは言え人の28年なら古いとは言えないだろう…機械ならちょっと古い。)
二代に渡っていろいろしてるから、まずとまったりはしないと思う。
でも電気系は突然死するかも知れない。だから不安はやっぱりある。
だから最悪、途中でエンコしたらどうするのだろう、と考えながら行く。
打ち捨てて電車で行かねばならないかも知れないけれど
そううまく電車なんか通ってないだろう。なにせ人口密度は低く、田舎には麦畑しかないのだ。
いや、この度のルートは、どちらかと言えばブドウ畑か。
いわゆるシャンパーニュ地方を通っていくのだから。

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9月21日水曜日、400㎞を走ったのち午後一番に着くべく早朝に出発する。
6時に出れば十分だろう…
そう思ってると7時をまわる。でもまだ大丈夫。
いろいろ考えず、ナビに最短で着くよう指定してあとは従うのみ。
でも勝手知ったA6よりはA5で行きたい。
6は南へ向かう大動脈だし、交通量も多い。真っ直ぐすぎてつまらないし風も強いのだ。
だから最初だけナビを無視してA5方面に向かう。

A5はどこに向かうのかはっきりしないような半端な高速なので
あまり使わないし、知らぬ道を走るのには丁度良い機会だと思う。
そして実際、平日の午前中、ほとんど車はいなかった。
比較的山の少ない国だけど、意外に丘陵地がつながり
キロの単位で順に盛り上がり、そして盛り下がる地形がどこか星を思わせる。
朝靄の中を、前後に誰もいない高速の上を、風とばかり戦いながら
せっせと走っていけば、どこか見知らぬ惑星の上を低空で飛んでいる。
火星か、いやそれにしては緑が多いか…

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ようやく人心地つく。それでもあまり人々はいない。
ガソリンの支払いもレジが開いてないから、カフェのほうで支払う。
パン・オ・レザンをひとつ買って自販機のコーヒーで朝食とする。
パン・オ・ショコラかレーズンか、それともその両方か。
どこにでも売ってるし、逆に言えばそれしかない。
コーヒーの自販機だけはちょっと進んでて、エスプレッソやらカフェオレやらが
各種選べるのだ。もちろん缶入りではない。
道の駅なんて洒落たものはないし、地元の名産が売っているわけでもない。
人口密度が低いから寂しいと言えば寂しい。
でも遠く誰かに会いに行く、というような状況ならむしろ好ましいような気もする。
あるいは疲れた日常から逃げるようにして荒野を行くとでも言うかのような。

ラスト150㎞程、残り時間2時間ほどでなぜか高速を降りるよう誘導されてしまった。
一時間前程には到着して、ホテルに荷物だけ置かせてもらって
余裕をもって会場に向かいたかったのだけれど、仕方ない。
田舎で程よくアップダウンがあり、走り甲斐のある道だったから良いだろう。
写真を撮りたい場所も多々あったけれど、いちいち止まってられなかった。
かくして人は慣れ、という悪徳にもそまる。
そして疲れと忙しさ、という言い訳がそれに加わるのだ。
みずみずしさを失っていくのだ。
中年の悲しさと言ってもいい。

r-DSCN7118.jpgr-DSCN7120.jpg

山の近い街だった。
バイクで来てるから、近郊の安ホテルに宿をとっていた。

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会場まで10㎞近くもあるけれど、人々と違う景色を見るには良い機会となる。
同時に人々とますます溝が深まる要因ともなる。
皆さんは観光気分でどうぞ。
なにはともあれ、期間中は地元民と混じって朝夕に通勤することになったけれど
道を覚えられるからいい、というよりは
つかの間、違う街に住んでいるような気になれるのがいいのだ。
ホテルに帰る道のとある立体交差が、なぜか強烈に「小竹向原」を思いださせて不思議な気持ちになる。
あれはたしか川越街道だったか。いや要町通りか。そしてこれは数千キロは離れた異国の地で。

地球の起伏を肌で感じながら移動をし、地点と地点の間にひそむ意外な秘密の繋がりに時に不意に胸を打たれ
そして最終的には「どこでだって生きていける」、とでも言うような、そんな軽い高揚感にも襲われる。
母なる大地と言ったりするのだから、すべての丸みを帯びたその起伏は
君を拒んだりはしない。
ただ、せっせと走らねばならない。その肌の上を。
空路や鉄道で無粋にいきなりやってくるだけでは、心を開いてはくれないだろう…

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帰路は夜にかけてだった。
途中クリアのシールドに交換してひたすら距離を稼ぐ。
実は二年前程に燈火類をLEDに替えて以来、初の長距離の夜走りだけれど
明るさはまずまずだった。ただスモークではやはり見えないからクリア携行が条件だ。
空の半分がなかなか暗くならないけれど、
後ろを振り返ればもう星がでている。
かたや行く手には太陽の残照がたなびく雲に僅かながらいつまでも見えている。
こうしてますます宇宙を走ることとなる。
前後にほとんど他の車もなく、ついには闇に飲み込まれるようだけれど
行く先には小さなアパートがあり
待っている人がおり
かくしてこの小さな幻想の道行も終わる。

あと80㎞程だ。
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Comments 2

モビモビ太  

No title

私も千葉から静岡までの出張で新幹線を使わず、バイクで行き他社の方から変な人に見られました。先日も2泊3日バイクでキャンプツーリングしてきました。なんでバイクでいくのか言葉で表せられませんが、シャリンさんの今回の記事を読むと そうそう そうなんだよ と思う事がいっぱいでした。文才がない自分には表現できない、自覚していないところを確認させてもらう事なり楽しかったです。

2016/10/08 (Sat) 22:20 | EDIT | REPLY |   

車輪の上  

No title

こんばんは、なんだか共感して頂けたようで嬉しいですね。
ありがとうございます。
確かに千葉-静岡なら普通は新幹線ですよね。
でも環境的に許されるなら私も二輪で行くと思います。というか行きたい。
もびたさんの記事も拝見しましたが、写真がとても良かったです。
天気も良く道も良い感じでしたね。
なかなか走りごたえのある好ルートという感じで
自分も旅している気になれたのがとても良かったです。

2016/10/09 (Sun) 05:50 | EDIT | REPLY |   

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